ダイソーで少し前から売り出されている、ゲームブックシリーズの第1段。
2冊出版されたうち、昔ながらの王道っぽい方がこちら。
もう1冊は「オシャレ魔女♥ラブandベリー」みたいなタイトルなのを見て、とりあえず後回しにした。
対象年齢は明確に記載されていないが、読んだ印象としては、だいたい小学校の中学年くらいをターゲットにしていそうな雰囲気である。
内容は、オーソドックスなファンタジー。
異世界生まれ 異世界育ちな主人公と、卵生まれ すくすく育ちの小さなドラゴンによる2人旅で、巨人を懲らしめに行く。
さて、本作の評価だが、おすすめはしないでおく。
光る部分もあり、出来としては価格以上だが、100円だからこそ、安易には勧められないと思った。
僕が子無しの成人男性だからというのもあるが、それだけではない。
気になったのは、文章の味気無さ。
なんだか生成AIで作ったような、枠組みだけの世界観なのである。
例として、パラグラフ1の文章を抜粋する。
ここは背景説明のパラグラフで、主人公の生まれ育った村の様子が描写されている。
相棒のドラゴンとも、まだ出会う前である。
主人公の村には、たまに旅の商人がやってきて、珍しい品物を売る。
あるとき、また旅の商人がやってきた。
旅の商人は、村にはない珍しい品物を売りにくるから、村でも人気だった。
服や道具のような実用品や、ほかの地方の食べ物なんかが人気だったけど……きみが興味をひかれたのは、騎士や魔法使いの彫像や、ドラゴンや妖精の形をしたアクセサリーだった。
藤浪智之、『きみが決めるストーリーブック ドラゴンカリバー ~とりもどせ! 巨人の宝物~』(大創出版、2023年)、4頁。
…もう少しディティールはないものだろうか。
こういった調子が続くので、中盤までは読むのが辛かった。
まあ、作者も承知の上で、あえて低年齢向けに書いているのだろう。
これが作者の実力だとは、あまり思いたくないところである。
100円ゲームブックに対して、界隈の人気作をぶつけるのもマウンティングじみていて何だが、例えば「展覧会の絵」は、次のような書き出しだった。
「さあさあ、リンゴはいらんかね。きのうの昼に木からもいできたばっかりの品だ。甘いよ甘いよ!」
「いや、それよりもこっちの薫製ニシンを見ていっておくれ。取り立てのニシンを塩漬にして、すぐにいぶしたものだ。買って損はないよ」
「ほらほらそこのおじょうさん!都で仕入れてきた上等の絹織物は欲しくないかい……」
さきほどより物売りの声がやかましい。あなたは彼らの手を振りほどきながら、昼下がりの市場をかきわけていく。
森山安雄、『展覧会の絵』(幻想迷宮書店、2016年)、(Kindleの位置No.63-68)
情報が多くて、市場の活気が伝わってくるのが良い。
こんな風に商人の様子が書いてあったら、読み物として嬉しかったな、なんて思うわけ。
とまあ、文章がイマイチ好きではない「ドラゴンカリバー」だが、終盤の展開は、面白かった。
詳細は伏せるが、演出がエモエモで、ゲームブックファンとして、買って良かったと感じるものだった。
往年の名作を思わせるような仕掛けがポイント。
実に効果的な使い方で、ニヤリとさせられた。
これについては恐らく、多くのファンが同じ感想を持ったことだろう。
終盤の良さを踏まえて、全体としては価格以上と評価したい。
しかしどうしても、価格にしては、という但し書きが付いて回るのが惜しい。
本作の立ち位置が、よく分からないのだ。
まるで、ちょっと良くできた5分間ミステリが、単行本として売られているような状態なのである。
詰まるところ、根本的な問題は、本作が100円で売られていることなんじゃないだろうか。
安ければいいというものではない。
相場から大きく外れていることそのものが、マイナスポイントなのである。
ゲームブックみたいなマイナージャンルであればこそ、初心者は、適正価格帯の定番に誘導するべきである。
逆に、100円で売っていると嬉しいゲームというのは、例えばナンプレの問題集みたいに、みんなが大体知っていて、そして誰が作っても、同じような仕上がりになるようなものなんじゃないだろうか?
要素的には、
- 面白さ、あるいは面白くなさまで、大体のイメージがつくもの
- 100円でないとギリギリ買わない程度には欲しいもの(必要性が確かにある)
- もしダメでも元々なもの(リスクを許容できる)
が良いと考える。
ゲームブックにとって痛いのは、面白さの相場をイメージできていないプレイヤーの手に渡ることだろう。
「確かにちょっと面白いけど、まあこんなもんか。2冊目はやろうと思わんな」
…みたいな感想に終わるのが怖い。
ちょっと話が逸れるのだが、100円ボードゲームなんていうシリーズも、ここ数年で続々出版されていたりする。
始まったのは2020年。
好評を受けてか、シリーズは現在、第4段まで続いている。
作品数にすると、30作近いラインナップだ。
それまで、ダイソーのボードゲームといえば、将棋などの伝統ゲームか、子供騙しのスゴロクくらいしかなかった。
そんなところに、流行の最先端を行くデザイナーによる、商業レベルの作品が並んだのだから、ファンであれば、それはそれは歓喜した。
が、僕はこれも同様に、立ち位置がイマイチだと思った。
ゲーム会に誘われて着いてきたような初心者相手に、コレを出して、仮に、500円レベルの面白さだったとして、だから何だというのだろう。
初心者の期待が1000円レベルであったなら、チョイスとしては失敗なのだ。
であれば最初から、1500円〜2000円程度の定番ゲーム(ニムトとか、ランドルフ御大の諸作とか)を出した方が、どう考えたって丸いじゃないか。
100円ゲームなんてのは、100円であるというただそれだけで、「所詮イロモノ」のカテゴリからスタートなのである。
コレをゲーム会で出しても許されるのは、既に遊び慣れたゲーマー同士ゆえだろう。
そいつらが、あまりのコスパに絶頂する(…こ、これはもしや、価格の5倍以上の価値がある!?)というのが、おもだった使い道である。
それに続く用途といったら、シーシャを吸いながら遊ぶことだろうな。
だって臭い付くから。
本の話に戻す。
では、小学校中学年向けの読書課題におけるベストプラクティスは何なのかと問われると、ちょっと僕は答えを持っていない。
なにせ、当時の読書習慣なんて、碌なもんじゃなかった。
うっすらとした記憶だと、レゴの小説(バイオニクルっていう、通常より等身高めでシリアスなシリーズの小説化だった)であったり、スターウォーズのノベライズであったりを読んでいた気がする。
識字の糧にはなったのかもしれないが、少なくとも作品として記憶には残っていない。
まして、レゴの方はマイナー作だったからか、今やGoogleの彼方に行ってしまわれた。なんて本だったんだろう。
したがって、もしもお子さんが「ドラゴンカリバー」を楽しそうに読まれているのであれば、それが正解で良いのだと、余計なお世話でしたと、いう話。
オチが良いから、案外思い出に残る作品なのかもしれないし。
と、購入済みの人向けには、そう言っておく。
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