基本データ
ここでは、各年の出版作品数計、出版社数といった、基本的なデータを提示する。
ガワだけの数字だから、これだと分かるような分からないような感じだが、取り急ぎ。
まずは各年の出版作品数を見てみる。
ご覧の通り、1987年から1988年にかけて、一気に半減(209作→90作)している。
ここでブームが沈静化、衰退期に入ったと思われる。
そこから89年に少し盛り返す(90作→118作)が、90年に再び半減(118作→58作)。
89年のささやかな復活劇についても、内訳(後述)を見るとそこまで明るい話題ではない。
実は、ごく一部の限られた制作元がブーム期を超える大奮闘をしており、やっとこさ支えていた形であったようだ。
出版社数も同様で、89年に微増を見せたものの、他は減り続けである。
量的な面だけでいえば、ゲームブックブームのピークは1987年で、その直後に崖を転がり落ちたことになる。
留意すべき点は、ウォーロックの創刊が86年の12月であるから、ブーム元年と思しき85年の「殿堂」データは存在しないということ。
「殿堂」本文中の記載によると、この年の出版数は150作ほどだったようである。
出版社単位の平均と中央値も載せたが、ここはぶっちゃけあんまり意味のないデータ。
上で軽く触れたように、平均はごく一部の制作元によって大幅に引き上げられた値であり、中央値に至っては、88年以降の数値が脅威のオール0。
半分以上の出版社が撤退していたということである。
なお、平均と中央値の計算において、母数は期間中に1度でも掲載された出版社全体とした。
出版作品数ごとの出版社数
ここでは、出版作品数の実態をもう少し細かく見ていきたい。
例えば87年は作品数的なピークであるが、中には、ブームを支えた精力的な会社がいれば、ブームに乗っかっていっちょ噛みを狙った会社もいたはずだ。
そして88年以降の衰退において、各社がどのように撤退していったのかも見ていきたい。
まずは、出版作品数の多寡を、次のように3つに区分分けして、それぞれに該当する出版社の数を出してみた。
- 1作以上5作未満(青)
- 5作以上10作未満(黄緑)
- 10作以上(オレンジ)
ちなみに、グラフの生成にはWordPressのプラグインを利用した。
バーをタップすると、プロットした数値が見られるようになっている。
これを見ると、ブーム当時(1986-1987)、10作以上を出版していた積極的な出版社は、10社弱といったところだ。
そしてそんな会社たちが、87年から88年にかけて、1社を除いて軒並み虫の息となったことが窺える。
一転して、88年から89年では3社に増えている(双葉社、富士見書房、バンダイ)が、これは数字のマジックである。
双葉社とバンダイ(の大部分)は、実は制作プロダクションが同じで、出版元が違うだけ。
富士見書房の方は、TRPG関連書籍が8作もカウントされており、ゲームブックは3作だけなのである。
うーむ。
このねじ込みはいかがなものか。
果たして編集部は、ゲームブック衰退の現実から目を逸らしたかったのか、それとも本気でこれをゲームブックのひとつの「あり方」だと思っていたのか。。
いっちょ噛みの会社の方は、じわじわ減りつつも、89年まではまあまあ安定して存在していたようである。
1つ気になったのは、1989年になって「1作以上5作未満」の出版社がちょっと増えたこと。
落ち目になってからの新規参入があったのだろうか?
該当する会社の推移を見ていくと、前年1作も出版しなかったのに、89年になってちょろっと出した会社がいくつかある。
書き出してみると、以下の7社である。
各社の出版作品数の推移グラフも作ってみた。
- 角川書店(黄)
- 大陸書房(ピラミッド社)(赤)
- 学習研究社(オレンジ)
- 日本ソフトバンク(緑)
- 電波新聞社(紫)
- 新紀元社(水色)
- エニックス(青)
それぞれ、89年の出版ラインナップも見てみる。
角川書店の1作は「ロードス島戦記」。これはライトノベルである。
90年の1作も「ロードス島戦記Ⅱ」なので、角川書店は実質的に87年で撤退したといえる。
大陸書房(ピラミッド社)は86年に6作を出版して以降リリースがなかったが、89年に「アークス(ブラックドラゴンの誕生!)」と「ファイナルファンタジー」の2作を出版。そして翌年再び撤退。
学習研究社は、「シミュレーション歴史ブックス」シリーズの「真田幸村」と「源義経」を出版。翌年が0作なので、どうやら打ち切られた模様。
ここは87年に17作も出版し、もともと意欲的な企業であったが、88年は0作。
ほとぼりが冷めるのを待っての歴史シリーズ継続であったが、業界全体が勢いを失う渦中ではやはり難しかったか。
日本ソフトバンクの1作はRPG設定資料集なので、実質0作。
86年に2人用ゲームブック(「アドベンチャー コンバッ トゲーム LOST WORLDS」)など9作をリリースした企業であったが、その後は消極的だったようだ。
電波新聞社と新紀元社は、89年のみ「殿堂」に名を連ねた出版社。
新紀元社が出したのは全て関連書籍なので、実質参入していない(ただし後年になって本当に参入した)。
電波新聞社は「ビデオゲームアドベンチャーブック」シリーズ2作を出版。
唯一、遅れて来て、すぐに尻尾を撒いて退散したといえる出版社か。
エニックスも遅れて来た出版社だが、ここは90年代後半までと、ずいぶん長く続いた。
ドラクエゲームブックがメインとのことで、遊んだことはないが、一本道という批判噂をよく聞くような気がする。
とはいえ、砂漠の90年代においては、まるでオアシスのような存在であったことは間違いない。
こうして中を見ていくと、やっぱり「1作以上5作未満」の出版社は増えていなかったようだ。
やってくれたな。
続いてのグラフは、各社の参入と撤退、事業の拡大縮小、それぞれの推移である。
また、連続して出版を継続している企業の数もプロットしてみた。急速に減ってゆく様をご覧頂きたい。
- 新規参入(青):
前年が0作、かつ今年が1作以上 - 拡大(黄緑):
前年が1作以上、かつ前年<今年 - 縮小(黄):
今年が1作以上、かつ前年>今年 - 撤退(赤):
前年が1作以上、かつ今年が0作 - 連続出版継続(灰):
今年までの全期間で1作以上
89年は全体的に上向きであるが、この復活劇については、先述の実例を見るに、編集部の数字操作がだいぶ入っている。
これを鑑みると、やはり87年より後は各社、縮小と撤退が優勢だったと見える。
そして撤退が跳ね上がる90年の、圧倒的「終わった感」は、現役世代のゲームブッカーたちが実際に目の当たりにした光景そのものだと思われる。
全期間で1作以上を出版した企業は、わずかに4社(社会思想社、東京創元社、富士見書房、双葉社)のみ。
どこもファンには有名な企業であり、まさにブームを支えた柱であった。
これらの会社の出版傾向については後述する。
出版作品数上位、占有率、上位のその後
ここでは、各年でブームを支えた積極的な会社がどこだったのかを、具体的に見ていく。
各年における出版作品数上位3社は、下記の通り。
圧巻は双葉社の4冠(1987-1990)である。
実はこの双葉社、ブームが終わってからが作品数の最盛期(1989)となっているのである。
他の企業が次々と事業を縮小・撤退していく中で数字を伸ばしてしまったことで、双葉社まみれになる状況があったようだ(双葉社が悪いわけでは決してないが)。
そんなまみれ感を見るため、各年の「作品数1~3位」と「それ以外」の内訳を色付けしてみた。
- 1位(赤)
- 2位(オレンジ)
- 3位(青)
- 4位以下(灰)
また、出版作品数全体に占める上位の占有率を出すと、次のようになる。
88年で既に、上位2社で約半分のシェアを得ている。
そして90年には、双葉社だけで半分を超えてしまうのである。
これは、いかに業界が少数の出版社に支えられていたか、といったところ。
このような状態をブームと呼ぶのは難しいのではないか(というか87年も大概って気がしないでもない)。
さて、上位3社に1度でもランクインした会社の、その後はどうだったのか。
- 講談社(黄):
1986年1位 - 朝日ソノラマ(赤):
1986年2位 - 富士見書房(オレンジ):
1986年3位、1989~1990年2位 - 双葉社(緑):
1986年3位、1987年~1990年1位 - JICC出版局(紫):
1987年2位 - 勁文社(水色):
1987年3位、1988年2位 - 社会思想社(青):
1988年2位、1990年3位 - バンダイ(黄緑):
1989年2位
グラフの見方について補足しておこう。
このグラフでは会社ごとの推移を見て欲しい。
点をタップするのではなく、右上の凡例をタップすると見られるようになっている。
上記グラフを見ると、ブーム初期を支えた出版社が、思ったより早々に撤退していることに驚くのではないだろうか。
86年の1位と2位だった講談社と朝日ソノラマは、それぞれ翌々年と翌年に撤退。
大量リリースがトラウマにでもなったのかと思うような下降線だが、講談社は2000年以後も「都会のトム&ソーヤ ゲーム・ブック」などを出版しており、悪い思い出じゃなかったようで何よりだ。
朝日ソノラマはそのまま2007年をもって営業停止し、解散。
日本国内初のゲームブックは実は朝日ソノラマであるというのは、ファンには有名な話。
第2のドムドムバーガーにはなれなかったか。
87年2位のJICC出版局も、翌年0作で撤退。
ウィキペディアだと「赤塚不二夫劇場」が88年に出版されたように書いてあるが、「殿堂」だと87年扱いだった。
ここの「アドベンチャーノベルス」というレーベルには、現在は推理小説家として活躍している山口雅也氏のデビュー作「13人目の名探偵」が収められており、中古価格が高騰している。
87年3位、88年2位の勁文社は、89年は1作のみ。90年は0作で撤退。急激に縮小した。
上位入りした年はいずれも、ラインナップの約半数が双葉社と同じ制作元である。
その他、特徴と言えるのは、ファミコンゲームを原作としたコミック形式のゲームブックを出版していること(マリオの漫画ゲームブックとか)。
まあ、ぶっちゃけ作品の評判をほとんど聞かない会社である。
なお、ここも2002年に倒産している。
連続出版で取り上げる4社と、作品のほとんどが双葉社と同じ制作元であったバンダイについては割愛。
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