「ゲームブックはなぜ廃れたのか?」というテーマは、ゲームブックブロガーであれば誰しもが一家言をお持ちであろう、定番の議題。
ファミコンブームの影響がどうだとか、某社による粗製濫造がどうだとか、あれこれ言われているけれども、ぶっちゃけ後追いなので分からん。
当時生まれていなかった世代からすれば、ゲームブックというのは第2次タピオカみたいな存在で、廃れるのは当たり前というか、むしろ流行った方が不思議なコンテンツに思えるくらいである。
そんな「なぜ」の方の分析は、当時の空気感を肌で感じていた現役世代の方々にお任せすることとする。
本稿では、「ゲームブックの歴史を追う」連載第2弾として、「ゲームブックブームはいつ終わったのか?」を、データから分析した。
ソースとしたのは、ブーム期を業界とともに駆け抜けた唯一のゲームブック専門誌「ウォーロック」。
当時の空気を窺い知ることのできる貴重な資料である。
ウォーロックには「ゲームの殿堂スペシャル」なるコーナーがあり、前の年に各社から出版されたゲームブックを集計して、一覧化しているのである。
この企画は毎年恒例化していて、1987年発行の第4号から、1991年の第51号まで、例年4月ごろに掲載されていた。
情報としては、書名、出版社、シリーズ名、判型、価格、作者までが記載されている。
本稿では下準備として出版年、出版社の粒度で集約した一覧を作成し、それをさらに加工した情報から考察を行った。
なお、ウォーロックは1992年3月、63号をもって休刊された(事実上の廃刊)。
2018年になって後継の「ウォーロックマガジン」および「GMウォーロック」が創刊されたが、こちらは買っていない。
旧ウォーロック時代からの傾向だが、編集部はどうも、ゲームブックのことをTRPGの「踏み台」あるいは「代替品」と捉えていた節がある。
巻を重ねるにつれて、ゲームブックの記事が縮小されていくのである。
「ゲームの殿堂」についても、89年のリストからは、見るからにTRPG関連書籍らしき「クロちゃんのRPG見聞録」みたいな本がリストにねじ込まれるようになってしまった。
調査の上では、これらを取り除きたいところだったが、全件の抽出は無理なので、特に断りのない限りは、「殿堂」に載ったまんまのデータを用いることとした。
それから、ネットではよく思い出の一作として挙げられる「にゃんたんのゲームブック」シリーズについては、宗教上の理由なのか1作もカウントされていない。
最後に念を押すが、本稿はあくまで、出版作品数のデータから、ブームの様相を推察したものである。
「ブームであること」を表す指標として、売上部数というのは当然無視できないものであるが、いかんせんデータが無いため無視せざるをえない。
双葉社の量産など、本当に儲かっていたのか甚だ疑問であるが、基本的には儲かるから作品を出すものだという決めつけに則った考察となっていることは、ご容赦頂きたい。
各パートの概要
本稿における各パートの概要を以下に記載する。
まず「基本データ」では、各年の出版作品数計、出版社数等データを提示する。
結論をいうと、ゲームブックブームのピークは1987年とすることにした。
まあ、この結論を真っ先に教えたところで、一見さんにはどうにもなるまい。
あとはもう、「ブーム」という言葉自体の定義によってくるのだけれども、衰退期に入った時点で終わりと考えるのであれば、ブームは1987年までである。
さて、ブームと言っても、会社ごとの熱量はまちまちで、精力的に大量の作品を出版した会社と、いっちょ噛みを狙っただけの出版社がある。
まあ、いろんな会社が参入していること自体がブームの証、という風にもいえる。
「出版作品数ごとの出版社数」では、出版作品数の多寡を3段階に区分けして、各年でどのような出版社が多かったのかを見る。
さらに各出版社が、前年と比べて、事業を拡大したのか縮小したのか、あるいは新規参入したのか撤退したのか、それぞれの推移を見る。
これらデータから、87年をピークにゲームブックが勢いを失っている様子、そして90年の圧倒的「終わった」感が分かる。
「出版作品数上位、占有率、上位のその後」では、各年において出版作品数の上位3傑を出す。
そこからまず、上位3社が、その年の出版数全体に対してどれだけの割合であったかを見る。
加えて、上位となった出版社がその後、事業をどのように展開したのかを見る。
ここでは、88年には既に業界としての盛り上がりはなくなっていたこと、そしてブーム初期を支えた出版社が早々に撤退していた状況が分かる。
「殿堂」による集計が行われていた期間中、毎年1冊以上の出版を続けた会社は、わずか4社(社会思想社、東京創元社、富士見書房、双葉社)しかない。
その4社は、ファンであれば誰もが納得するような、業界を代表する出版社だ。
「1986-1990で連続出版を継続した出版社と、その出版傾向」では、その4社が、「殿堂」期間でどのようなゲームブックを出版したのかを見つつ、私見を交えてお気に入りの作品を紹介したりする。
なお、本稿は総じて、ゲームブックをリアルタイムで体験した世代に読まれることを、あまり想定せずに書いている。
もしそのような方がいたとしたら、特に「連続出版を継続した出版社と、その出版傾向」の項目については、非ゲームブッカー向けに書いているため、情報というよりは私見であり少々蛇足であることをここで断っておく(たぶんあなたのほうが詳しい)。
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