火吹山の魔法使い
(1984年 S・ジャクソン、I・リビングストン /
社会思想社)
同作者繋がりで、もう1作紹介。
FFシリーズの第1巻「火吹山の魔法使い」。
あらすじはこちら。
ワニ評
「生者必滅のワニ」
本作はリビングストンとジャクソンの共著だが、ワニの登場シーンはリビングストンによるものである。
そのワニシーンは、「トカゲ王の島」と同様にオーソドックス。
しかし、川に正体不明の「波立ち」が現れるところがアクセントとなっている。
「波立ち」は、川に棲む何らかの生物が起こしているもの。
この段階ではまだ、敵とも味方ともわからない、第三の存在である。
八六
S・ジャクソン、I・リビングストン(1982)、浅羽莢子(訳)『火吹山の魔法使い』(社会思想社、1984年)、70頁。
巨大な口が君の前でくわっと開く。口の大きさから見て君が泳いでいく先にいるワニは少なくとも体長三メートルはある。ワニは尾を水中で打ちふり、君の方へするすると進んでくる。(中略)
相方の激しい動きに、前に見とがめた「波立ち」が引き寄せられ、川の君のいる方へ進んでくる。
ここから先は2通りの展開がある。
自分の手でワニを倒すか、「波立ち」と共に倒すかである。
前者の場合、「波立ち」の正体を知ることなく終わる。
二五九
S・ジャクソン、I・リビングストン、同上、161頁。
ワニを離れて岸に泳ぎ寄りながらふり返ると、謎の「波立ち」が爬虫類の体に近づき、荒れ狂ったと思うと先へ進むのを目にする。ワニは跡形もない。「波立ち」の正体を知ったのが自分でなかったことに感謝して、君は水から北岸に上がる。
後者の場合、「波立ち」の正体が明かされる。
三五〇
S・ジャクソン、I・リビングストン、同上、208-209頁。
「波立ち」に取り囲まれるとともにたくさんの小さな魚が押しあいへしあいしているのが感じられる。狂暴な歯で君の肉が食いちぎられ始めておそるべきピラニアに囲まれているのだとわかる!
さいぜんの戦いでワニに手傷を負わせたのなら、君はついている。ピラニアの大半は血を流している爬虫類を襲うからだ。
その正体はピラニアである。
ピラニアは、血を見るなどして興奮状態になると、大型生物を襲うことがある。
本作のワニは、捕食者であるとともに、自らも場合によっては捕食されうる立場となるのだ。
このワニシーンが図らずも象徴してしまっているのは、「火吹山」の無秩序さ。
本作の舞台は、仮にも「地下城砦」と称される施設である。
その割に、人員の配置がめっちゃ雑だ。
いったい何を考えて、ワニとピラニアを両方とも放し飼いにしているのか。
喧嘩になったじゃないか。
跡形もなく消え去ってゆくワニの悲哀といったらない。
同シーンでは、川にいる渡し守も妙な存在だった。
城砦の給与所得で暮らしているらしき渡し守だが、「取り引き好きだから」という理由で、渡し賃を要求してくる。
職務で小遣い稼ぎをするとは、ありそうでなかった発想である。
渡し守とは、こちらの出方次第で戦闘になる。
すると正体を表すのだが、彼は人間ではなく、なんとネズミ男だったのである。
なんとネズミ男だったのである。
なんとネズミ男だったのである。
なんとネズミ男だったのである。
…斜め上のサプライズで、意味はわからんがとにかくすごい雇用だ。
思えば、「トカゲ王の島」の火山島には、なんだかんだで秩序があった。
島の約半分は、トカゲ兵によって管理されている。
トカゲ兵には、変なもぐりの兵が混じっていることはないし、居眠りしているやつもいない(火吹山の番兵は入り口で居眠りしている)。
野生動物のエリアは、管理されていない区域ではあるものの、管理されていないなりに、生物同士の共生関係が築かれている。目の前で敵同士が争いを始めたりはしないのである。
でも結局、リビングストンの作品は、ゴチャついている方が面白いのだ。
彼の資質はこうして、その場で思いついたようなアイデアで一作書いて、それでスティーブ・ジャクソンと肩を並べてしまうところにあるんでしょうな。
「波立ち」の正体を知らずに終わるルートがあるところなど、地味にセンスがいい。
仮に、どちらの展開でも「波立ち」の正体を明かしてしまう作りにしたって、ゲームとして何の問題もないのだ。
なのにあえて、情報を与えないクリアルートを設けることで、展開に幅を持たせている。
ゲームを複雑にすることなく、見せ方を変える。
これは、分岐小説の強みを生かす好演出である。
火吹山の魔法使い あらすじ
ファイティング・ファンタジーシリーズ、記念すべき第1巻である。
1巻ゆえか、ストーリーは一段と薄い。
主人公の目的は、火吹山の地下城砦(ダンジョン)に眠る秘宝。
秘宝は、地下城砦の主である魔法使いザゴールのれっきとした所有物なので、主人公はただの略奪者である。
火を吹く龍、ミノタウロス、サイクロプスなど、第1巻にして定番の怪物たちが登場。
彼らを率いるザゴールは、特に何も企てていない。
「悪の魔法使い」と呼ぼうものなら法的措置に出られるレベルである。
君が冒険に失敗しても誰も困らないぞ!
コメントを残す