挿絵についても触れておこう。
フーゴ・ハル氏は、日本のイラストレーターだ。
自身もゲームブック作家であり、ブレナンに酷似した作風が特徴である。
両者の作風はほぼ生き別れの双子と言ってよく、正直、どちらが書いたのか区別できる自信がない。
イラストレーターとしては、鉛筆画が特徴。
ブレナンの作風にぴったりの、ユニークかつ不気味なイラストである。
どれくらい作風にぴったりかというと、、
一一五
まるでハリウッド映画のセットみたいに豪華な食堂だ。中央に大テーブルがでんと据えられ、おいしそうな料理と酒が山のように載せられている。壁には凝った装飾がほどこされ、北側の壁には肖像画がかかっている。どこかで見たことあるような、奇妙な絵だが……。ふと下の銘板に気づいた。名画「ザリナモ」と記されている。本物だろうか?
ハービー・ブレナン、同上、71頁。
「ザリナモ」が気になるなら、六七へ。

六七
ハービー・ブレナン、同上、41頁。
名画「ザリナモ」を鑑賞していると、頭に小さな角が生えているのに気づいた。近寄ってもっとよく見ると微笑を浮かべた口元には牙が生えていて、絵の隅に「チンビダ」と署名が入っている。
結構ガチめにモナリザをパロってくれるサービスシーン。挿絵は見事これに応えていて、素敵じゃないか。
絵柄はゲームの世界観にけっこう影響するはずだが、まったく、ばっちりと洋物なのである。
もう一つだけ、大好きなシーンを紹介する。
なにせ、ブレナンの作品を紹介するとなったら、いい場面を切り取るしかないのだ。
一四五
扉を開けると、東の壁ぎわにあるベッドの上に少女が背を向けて坐っていた。「あなた、だあれ?」
と少女の声がしたかと思うと、ぐぎぎぎーーギリギリギリーーーと耳ざわりな音をたてて首がくるりと回転し、顔がこちらを向いた。体は壁を向いたままだ。顔は醜くゆがみ、目を赤く光らせ、長い舌でペロペロ鼻先をなめながら、笑っている。
悪魔にとりつかれているぞ!「じゃまじないで!いぞがじいんだがら!」少女ががらがらのしわがれ声で吠えた。
聖水か十字架を持っていれば、悪魔払いをしてみるがいい。
ハービー・ブレナン、同上、86頁。
ところで、そう。
今更だけど、本作にも実はルールが存在する。
2ページとだいぶコンパクトであり、さらには巻末に要約までついている親切っぷりだが、これはいっそ無視してしまって構わないと思う。
それだけ文章に魅力がある。
ここの場面でも、本当は、サイコロを振って判定することを求められる。
だが、成功したことにしてしまって構わない。
戦闘も何もかも、無条件に成功にして良い。
それでも本作の面白さは損なわれないのである。
いわゆる無敵モードだ。
ただしアイテムの所持/未所持は、クリアルートに関わるので、記録しておいた方が良い。
ここでいうと、聖水か十字架の所持については、誤魔化さない方が良い。
一四三
「ぐげぐげ!ぐげええええええええ!少女は、断末魔の蛙のような叫びをあげるや、どさっ!とベッドに倒れこんだ。とたんに体からボッと緑色の煙が噴き上がった。苦しい戦いの末ついに悪魔払いに成功したのだった。しかし、煙が消えてみるとそこに少女の姿はなく、かわりに全身が剛毛におおわれた額に角をはやした悪魔が横たわっていた。様子をうかがっていると、まもなく全身がピクピクとけいれんし、やがて悪魔は意識をとりもどした。むっくりと起きあがって、
「よかった、変な訛りのある少女にのりうつられて、ほとほと困っていたのだよ」
身をくねらせながらそう言うと、赤い目でウインクしてみせた。
ハービー・ブレナン、同上、84-85頁。
イベント自体の面白さは勿論だが、これは、翻訳書で剛毛という字面を拝むことのできる貴重な体験でもある。
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