悪夢の妖怪村(2016年 鳥井 架南子 / 幻想迷宮書店)
どんなゲーム?
- コメディー寄りのホラー。妖怪村から脱出するのが目的
- 江戸川乱歩賞受賞作家が、ゲームブックにハマって書いた作品
- 児童小説風の文章で、童心に帰れる内容。雰囲気ポプラ社
- 実は緻密なパズル要素
推薦理由
ゲームブックにしては欠点が少ない- ルールが、ゲームブックの中で最も簡単な部類
- 文章がうまく、ユーモアに富んでいる
- 脱出ゲーム風の謎解き重視なゲーム性は、今でも通用する
楽しみ方のポイント
- まずは2,3度、ゲームオーバーになるまでプレイしてみること
- ↑でゲームブックの感覚を掴んだら、思い切って別の作品に手を出してみること(ルールと比してクリア難度が高いため)
- 最悪は攻略ページが存在するという認識を持っておくこと
- ルールにおける「Ⅱ『パラグラフ直リンク』のことなど」の項目は最初、無視して初めて良い(1度プレイした後読むこと)
次に遊ぶ1冊
- より歯応えのある作品が遊びたいなら:
悪魔に魅せられし者(鈴木直人) - 同程度のルール難度でもう一作試すなら:
展覧会の絵(森山安雄) - 同作者の作品なら:
悪夢のマンダラ郷 - ちょいレア作品なら:
ルパン三世 黒い薔薇のノスフェラトゥ(樋口明雄)
Kindleで400円。原著は1985年 祥伝社から出版。
作者は江戸川乱歩賞受賞作家の、鳥井架南子女史。
Kindle版の前に1度、DSに移植されたこともある、密かな人気作である。
復刻というと、いっときの創土社作品などは、定価にして1000円を超える価格帯であり、新規客には厳しかった。
対して本作は、いつの時代においても500円を超えたことがない。なんとも慎ましやかな作品である。
本作の選考理由は、第一印象の良さに尽きる。
というのも、ゲームブックってのはどうも、何か1つ2つは欠点を抱えているのが当たり前なコンテンツだったりするからである。
それも、すぐ目につくような欠点が多い。
なにせ、もともと、80年代の文化である。
今日的な感覚とずれてしまうのは、仕方のないところだろう。
例えば、ファイティングファンタジーの第2巻「バルサスの要塞」。
ゲームブック界では超名作の部類とされる1冊だが、どアタマの選択肢から問題がある。
「バルサス」の主人公は、敵の要塞に、医者を装って潜入しようとする。
結果、冒頭のシーンでいきなり、入り口の衛兵に疑われてしまうのだが…
薬草を見せてみろという。さいわい、くる途中で雑草をひとつかみむしってきたのでそれを見せる。(中略)なんという衛兵の治療にきたのかとたずねる──予定外の質問だ!君は急いで適当な名前をでっちあげる。
スティーブ・ジャクソン(1983)、浅羽莢子(訳)『バルサスの要塞』(社会思想社、1985年)、166-167頁。
ここででっちあげる名前は三択。正解の選択肢であれば中へ通してもらえるが、外すと衛兵と戦闘になる。
選べる名前は、「キルトログ」、「ピンカス」、「ブラグ」である。
この三択がなんと、冗談抜きで全部適当な名前なのである。
ノーヒントなので選びようがない。
いやむしろ、なんとなくピンカスを選びたくなる。
なんだろうピンカスって。不思議と懐かしい語感だ。
ほんでもって、敵の要塞にくる途中で雑草をむしってくるという行為。
ギャグマンガ日和じみたシュールさには、いささか戸惑いを禁じ得ない。
こういう、なんか気になる点というのが、ゲームブックの、時代ゆえに洗練されていない部分ではある。
そして、こういったズレ感を一度感じただけで、新規というのは、舐めてかかりだす。子供向けと高をくくってくる。
少年ジャンプを読んでいるような大人にダブスタされるのは屈辱である。
だから、そのような人種に自らのバイブルを見せてはならない。
閑話休題。
「悪夢の妖怪村」は、よくできている。
ゲームブックあるあるな欠点が、ほぼないのだ。
まずもって、ルールが平易である。
以前の記事でも少し述べたことがある。
ゲームブックを始めるまでのハードルは、第一に、ルールを読むことなのだ。
ゲームブックはボードゲームと違って、誰かが教えてくれることがないからである。
(ボードゲームは、遊ぶたびゲーム人口が芋づる式に増えていくので、たいてい誰かが教えてくれる)。
自力で乗り越えるしかないということだ。
それか、僕を家に呼ぶかだ。
本作のルール分量は、バルサスの要塞の2/3程度(10ページほど)。
この差は、初心者にとって大きい。
現代人がサブスク消費に溺れていることを、鳥井架南子と森山安雄の両氏だけは予見していたようである。
入りが爆速。サビ始まり。
ゲームブック比でいえば、本作はだいたい、そんなポジションである。本当だ。
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